いつのまに、も
どうして、も


必要ない。


あるのは好きだという事実だけ。





14.風邪菌とともに 後





「ん、・・・?」

ふと、目が覚めて。
私は未だ覚醒しないまま、瞼だけを持ち上げた。


あれ、あー・・・そっか。


私、風邪引いたんだっけ。

徐々に今朝の記憶が甦る。

カカシさんに風邪だと指摘されて、そのまま寝てたんだ。
なんとなくダルいなーとは思ったけど、カカシさんよく気づいたよなー。


なんて、がぼんやりと考えているとふとドアがノックされる音がした。

「はい、どうぞ。」

は扉に向かってそう言いながら、重たく感じる身体を持ち上げた。




「風邪の調子はどうですか?さん。」


「え、・・・イルカさん?」



お盆を手に、静かに部屋に入って来たのは
寝入る前に付き添っていてくれた人ではなく、少々意外な彼。


「はい、喉渇いてませんか?」

こちらが何かいう前に、取り敢えず手渡してくれたのは適度に冷たいスポーツドリンク。


「あ、ありがとうございます。」

「いえ。」

渇く喉を潤して。

はやっと先ほどから気になっている事を問いだした。


「あの、どうしてイルカさんが?」

「今朝、カカシさんに頼まれたんですよ。さんが風邪を引いたからついててやってくれないかって。カカシさんは任務だそうですから。」


そういえば、そんなこと言ってたっけ。


「なんか、・・・すみません///」

ふと、正気に戻ったは無造作極まりない現在の自分を恥ずかしく思った。

「いえ、あの///あ!すみません、こちらこそ女性の寝室に出入りするのは失礼かと思ったんですけど・・・その、事情が事情だったものですから。」

イルカは普段とは違うパジャマ姿のに、目のやり場に困ってしまい横を向いた。



「いえ、あのこちらこそみっともない姿をお見せしてしまって。」

「風邪なら仕方がありませんよ、じゃあー熱はかってみましょうか?」

まだほんのり赤い頬のまま、イルカは体温計をに手渡した。



「イルカさん?」


体温計を脇にはさみしばらく待っていたが、
黙っているのもなんなのでは先ほどから不思議に思っていた事をイルカに訪ねてみた。

「はい。」

「あのー今日、お仕事は?」

「あーえっと、今日は休みだったんですよ。たまたま、ハハハ。」



カカシさんが火影様に掛け合った事も、今日の事が任務扱いなのもさんに告げてしまうには俺にとって不利なことのように思えた。

だって、カカシさんがそこまでしてさんを想ってるなんて・・・。




いや、俺だって負けないくらいさんが好きだ!



「そうだったんですか、すみません。わざわざお休みのところ。」

「いいんですよ、困った時はお互い様でしょう?」

イルカがなんでもない風に爽やかに笑って見せたところで、体温計が鳴った。




「・・・・。」




数字を見て黙るに、イルカはすかさず液晶を覗きこんだ。

「んー結構ありますね。食欲はあります?」

「少し・・・は。」

自分の体温を数字で見て若干ショックを受けているさんが、こんな時に不謹慎だけど可愛くて。
しかも頑張って食べようとしてるところがまたなんとも言えないな。


「じゃあ、りんごすってきますね。それなら食べれそうですか?」



「え?あー、はい。・・・お願いします。」



寝てて下さいね。と告げて出ていったイルカに、はなんでバレたんだろうと首を傾げていた。




本当はなんにも食べたくなかった。
ただせっかく看病にきてくれたイルカさんにそれは申し訳ない気がして。


それに、食べなきゃ治らないもんね。



程なくして、再びお盆を携えてイルカが戻ってきた。
は口にしながらイルカとの会話を再開させた。

「私の風邪、貰って帰らないでくださいね?」

「ハハハ、気をつけますね。俺、1人暮らしなんでひくと大変なんですよー。」

「あ、私も前に1人だったんでそれすっごくよくわかります。お母さんがいたらなーとか思っちゃいます。」


「そう、ですね。」

幼いころで止まっている母の記憶。
元気な子どもだった俺は数えるほどしか、看病なんてしてもらってないっけ。


不意に見せたイルカの寂しそうな遠くを見るような表情に、は胸が締め付けられた。


忍者の人がよくする顔だ・・・。
自分が関わってきた忍は、たまに今のイルカのような顔つきをする。


の計り知れない過去の悲しみを、胸に抱えて。


「わ、私!イルカさんが風邪ひいたら今度は私が看病に行きます!!っ、・・・ゴホッ。」

勢いがよすぎたのか、喉が弱っているせいか、は咳き込んでしまった。


さん!大丈夫ですか?」

そんなの背中をさすりながら、イルカは心にじんわりと温かな気持ちが拡がっていくのを感じた。



ようやくが落ち着いて、やっとイルカは感謝の言葉を口に出来た。
「ありがとうございます。」

「え?」

さんが看病に来てくれるなら俺、喜んで風邪ひけますね。」

「な。アハハハ、喜んで風邪引く人なんてあんまりいないですよ?」

気づけばりんごが入っていた皿は空になっていて。
少しは食べ物が入った胃に、はカカシが揃えてくれた薬を飲んだ。

「じゃあ、これは俺が。俺リビングに居ますから。なにかあったらいつでも呼んでくださいね?」

「はい、・・・ありがとうございます。」


に眠るよう勧め、部屋をでたイルカはリビングで持参した仕事を片付けようと
机に先日行われたテストを広げ採点を始めた。


「んー、この子はだいぶ頑張ったな。」

時折独り言を発しながらも、気づけば集中していたらしく
が起きた気配がした時には昼をとうに過ぎておやつ時になっていた。


「もう、こんな時間かー。」

イルカがの様子を見に行こうと立ち上がったその時、逆にの部屋の扉が開いた。


さん?」

「汗かいてしまったんで、着替えようと思いまして。」

「大丈夫ですか?」

「はい、流石に・・・こればっかりはイルカさんに手伝ってもらう訳にはいきませんからね〜。」

少しふらふらと、心許ない足取りではあるが。
そう言って笑ってはバスルームに消えていった。




・・・・//////



イルカは再び採点に取り掛かろうと赤ペンを手にしてみるが、余計な想像が先ほどから大いに邪魔をしてくれる。
布が擦れる音こそしないが、そこはイルカだって健康な青年男性。


だって、隣でさんが着替えてるなんて・・・///



あ、ヤベ。




ふと、我に返ってみると採点中の生徒の答案用紙が見るも無惨な姿になっている。


わーす、すまん!

明日渡す際にどう言い訳しようか・・・と考えていると、ようやくが出てきてイルカのいる方へ向かってきた。
イルカは慌てその答案用紙を1番下に隠してなんでもない風を装う。


「あ、起きてて大丈夫ですか?」

「はい、ずーっと寝てたら目が覚めちゃいましたから。」

朝に飲んだ薬がまだ効いているのか、朝よりは顔色もいくらかすっきりしている。


「それは良かった。」

「多分、薬が効いてるんだと思いますけどねー。」

「ですね、きっときれたらまた熱上がっちゃうんじゃないですか?」

「そうかもしれませんね、もーさっさと治ればいいのに。」

じっと家で寝ているだけなのが退屈なのか、少し口を尖らせるさんは子どものようだ。


「あ、食欲はどうです?」

少し、お腹空きました。とが返事をする代わりに。




きゅるる〜




お腹が返事をした。

「す、すいません!うわ〜恥ずかしい////」

「アハハハ、少しは元気になったみたいですね。じゃあ、俺なんか作ってきます。」

笑いながら、イルカさんはキッチンへと向かっていった。


「う〜〜///なんてこったい。」
ただでさえパジャマ姿で、髪もボサボサの起きぬけ状態なのにその上お腹まで鳴らすなんて・・・。



女失格だぁ〜。



は恥ずかしさに必死に耐えながらも、イルカが作ってくれたお粥を食しお腹も落ち着いた頃。


「テストの採点ですか?」

イルカの手元を見てそう言った。

「あ、はい。明日返さなくちゃいけないもんですから、合間に・・・と思って。」



そう言って笑うイルカさんは、先生の顔をしていると思う。



「イルカさんて、凄くいい先生ってかんじしますよね。」

「え?全然・・・そんなことはないですよ///」

「ナルトくんを見るかんじがそうだなーって。生徒想いで、熱心で間違ったことしたら許さない!みたいな。」

「ははは、不器用だってよく言われます。」

「そーいうのがいいんじゃないですか〜。イルカさんみたいな人が私の先生だったらなー。とか思っちゃいますね、へへへvv」


少し照れながらはにかむように笑うさんを、この時すごく愛おしく思った。

この笑顔が俺だけのものならいいのに。


ずっと、


俺のそばでさんが笑っていてくれたらいいのに。



「イルカさん?」


「え?あーボーッとしてました、俺?」

「はい、少し・・・私コーヒーでも入れてきます。」
きっとイルカさん、お仕事忙しいのに・・・私のためにって無理してくれてるんだ。


せっかくの休日を自分のせいで台無しにしてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいのは、
これくらいなら、と立ち上がった。

さんは風邪なんですから、そんな・・・・っ!!!」



あ・・・ヤバいかも。



勢いよく立ち上がったせいか、目の前が次第に霞んで暗くなっていくのを感じた。
足に力が入らなくなり倒れる、と思ったのと同時に誰かに抱きとめられた。



さん?大丈夫ですか?!」


頭上から声がする、・・・返事しなきゃ。


「・・・大丈夫です、ただの立ちくらみです。」

の落ち着いた声にホッとしたのか、イルカは抱きしめている腕を緩めて余分な力を抜いた。



「なら・・・よかった。」


聞こえてくる声が、どこか遠くに感じられた。


頭がぼんやりする。


「あの・・・」

「すいません、もう少しだけ・・・このままで。」

そう言って少し入れられた腕の力。

抱きしめた身体は、自分が思っていたよりもはるかに華奢で。
中忍とはいえ、男の俺がその気になれば簡単に折れてしまいそうなのに。

今腕の中にいる女性は、真ん中にしっかりとした芯を持っている。


明るくて、

いつも楽しそうで。


泣きそうになっても、俺にはまだ涙は見せてくれない。
カカシさんの前では泣くのかな。


いつでもこうしてさんを支えるのが、自分ならいいのに。



さん。」



料理がうまくて、かわいくて。
ナルトにもちゃんと好意をむけられる。


弱そうで強い、


けどきっと本当の彼女がどちらかなんてどうでもいい。




そばにいたい。



そんなさんが、




「俺、・・・」




温かい、意外にがっしりとした感触。
肩にのる重みと、かかる吐息。


鼻をくすぐる香りは私が知っているのとは、違う。

カカシさんは、夜の匂いがする。
深い真っ暗な、夜の森に立っているときみたいな。



そんな匂い。



抱きしめる時は、あたしの頭を長い腕ですっぽり覆って。

さらさらと髪をすく指が心地よくて。




「好き・・・です。」





あ、・・・そうなんだ。
あたしカカシさんに抱きしめられるのが好きなのか。



って、あれ?今の私の声じゃなかったような。


・・・あたし今、誰に抱きしめられてんだっけ。

「ん?」


「は?」

告白したのに、その反応としてはさんの今の言葉はえらく疑問のニュアンスを含むもので。




「あの、・・・イルカさんは何が好きなんですか?」



あぁ・・・ひとつ忘れてた。



・・・この人天然なんだった。




「えーっと、」

「すみません、いつの間にか違う事考えてたみたいで・・・その、聞いてなかったです。なんの話でした?」


思わず口から出た、自分の告白はびっくりするほど届いてなかったらしい。


あーそっか、さん天然な上に今は体調悪いんだった。


「なんでもないです、それより平気ですか?また熱上がってきたんじゃないですか?」


イルカは抱きしめていた腕をとき、と離れた。

「かもしれないですー。」

支えを失ったは、ボーッと立ちながらわずかに荒い呼吸でダルそうに答えた。
イルカは自分の額との額に手を当てた。


んー薬がきれたかな。


「部屋で横になりましょうか。」

こくん、と頷きイルカに手を引かれながらは自分の部屋へと戻り再びベッドに横になった。



「氷枕、取り替えてきますね。」
とイルカさんは言った気がする。
ダメだ、もやがかかったかんじで何も考えられない。イルカさんはさっき何が言いたかったんだろう・・・。

イルカさんが新しい氷枕を持ってきてくれたのにも気づかずに、私は眠りに落ちた。




「すいません、今日は任務でしたね。」


今の俺は忍として、さんに接しなきゃいけないんだった。
なんてこと、本当は初めから頭になかった。

だって、この人の前じゃ



俺は冷静でいられない。



「カカシ・・・さん。」



聞き逃してしまいそうなほど、小さな声で愛しい人が呟やいたのは、俺ではない人の名前。


イルカは1つため息をついて、の部屋を出た。





先ほどやりかけていたテストの採点をしようと、机に向かったはいいが・・・。



カカシさんて、男の俺からみてもかっこいいもんなぁー。



本人は気づいていないようだが、どうみてもさんはカカシさんを想っている気がした。
俺の告白も届かないくらいに。


どんなに俺が必死になって、彼女を求めても。

さんの心に響くのは、心が動くのは


カカシさんただ1人なんじゃないかと。


イルカは思った。
しかも相手は里一の上忍なのに、俺は冴えない万年中忍のアカデミー教師・・・。

うわー俺自分で思っといて惨め。


今日だって

ムサシを置いていかなかったのは、単なるプレッシャーかそれとも信頼か。


俺は自分が任務だからって、好きな人のそばに想いを寄せてる男を置いておけるだろうか。
自分のエゴを殺して、彼女を思いやることが出来るだろうか・・・。



「はなっから俺に勝ち目はなかったって訳ね。」



きっとカカシさんが本気になれば、あっさりと叶わないんだろう。
でも、だからってはいそうですか、って諦めきれるほど簡単なものでも軽い気持ちでもない。



だって気づいたら好きだったんだ、さんが。


「あーダメだ。仕事にならん。」

イルカは先ほどからいっこうに進まない採点を、いっそ諦めて手にしていた赤ペンを机のその辺に投げた。


っていうか、お互い想いあってるんだからいい加減くっつけばいいのに。
・・・そうなれば諦めもつく。



「あの人はきっと、・・・自分から誰かを求めたことなんかないんだろう・・・な。」


いつも読めない瞳と態度。
適度に距離を置いて、興味がないフリを装おって傷つかず傷つけずを崩さない。



やっぱ、俺が一肌脱ぐか。



さんが笑っていれば、

それを見ていられれば。


満足とは言わないがそれを守りたいとくらいは思う。
なりふりかまってられないように、なればいい。


「かっこつかなくさせてあげますからね、カカシさん。」



だってがむしゃらに彼女を求めるくらいでなければ、納得できないではないか。




それから夜になってもが目を覚ますことはなかった。
イルカは帰ろうかとも思ったが、風邪で寝込んでいる女性を1人放っておくわけにはいかない。

カカシさんはいつ帰ってくるかわからないのだ。


それになにより、どんな理由でも

もう少しだけ。


さんのそばにいたかった。




自分の家に入るのに気配を消すのはおかしいと思って、カカシは散々迷った挙げ句そのまま玄関を開けた。

正直な話、万が一にもないとは思うが気配を消して帰ってイルカ先生とが・・・なんて場面にでも出くわそうもんなら、という考えが無かったわけでもない。



まぁ、なきにしもあらずって言葉があるくらいだしねぇ。



カタン。


わずかに物音と気配に、イルカは目が覚めた。


「すみません、起こしちゃいましたね。」

「カカシさん、任務お疲れさまです。」

イルカは自身の身体を横たえていたソファーから身を起こして、カカシを見た。


「イルカ先生こそ。明日があるのに付き合わせてしまってすみません。」

その言葉が本気なのか、冗談なのか。
イルカはいくらカカシを見てもわからなかった。

今の俺には皮肉にしか聞こえないな。



“でも少しでものそばにいられていい思い出が出来たでしょう?”



そんな風に捉えてしまう自分に少し腹がたったが、そうなのも事実だ。

俺の想いは、きっと叶わない。


「イルカセンセ?」


そう呼ばれて、やっとこちらの世界に思考が戻ってきてみるとカカシは既に身につけているものはあらかた外してしまった後だった。


「・・・それ、手伝います。」

見ると左腕の肘から下にかけて浅い切り傷が縦に走っていた。
その場所では満足に包帯が巻けないだろう。



「あーすみません。」

包帯を持って隣に腰かけるカカシ。
くるくると、手際よくイルカはその腕に巻きつけていった。


どうせ、さんが心配で柄にもなく怪我したとか言うんだろ。



・・・わさびでも傷口に塗りつけてやりたい気分だ。



カカシさんが心配したのはの身体か、それとも俺がそばについているということか・・・。

「助かりました、今日。」

「いえ、大したことは出来ませんでしたから、俺。」

「風邪の時は心細いもんでしょう?」

特にオレら忍と違ってなんて一般人ですからねぇー。なんてのんきに言うカカシさんは。

やっぱり自分よりさんなんだ。


「・・・敵いませんね。」

「え?」

「なんでもないです。では俺はこれで任務完遂ってことでいいですよね?」


イルカは荷物をまとめて立ち上がった。

「ありがとうございました。」
と頭を下げるカカシさんにむかって。



「いえ、こちらこそいい思いさせていただきました。」


「は?」

多少の事では驚かないはずの目の前の上忍が。
ちょっと面食らった表情をしていることに、イルカはニヤリと口の端をあげてカカシの耳元に囁いた。




さんって、・・・着痩せするタイプなんですね。」




じゃあ、と言ってイルカは玄関の扉を閉めて帰っていった。



「うそォ〜・・・。」


カカシがしばし玄関先で固まっているのをイルカが見たらなんと言うのだろう。


嫌だったけど、の看病なんてオレでもなにしでかすかわからないような危険なものでも
ある意味イルカ先生なら、大丈夫だって思ったのに!!


恋愛とか不器用そうだし・・・さすがに童貞ってことはないだろうけど。


しかも任務だと言えば、あの真面目な忍なら私情をはさむこともないと、踏んでいたにも関わらず・・・だ。



「・・・・イルカセンセーになにしたワケ?」

やっぱり、イルカは腹黒いと。

あの人を侮っていた自分にカカシは深く反省した。




やっと気を取り直してみると、の様子が気になったカカシは今度は気配を消して、の部屋のドアノブへ手をかけた。

音をたてないように、静かにあける。


スッ、と無音で中に入ると、わずかに息が荒いがベッドに横たわっていた。
カカシはベッドのあいたスペースに腰かけ、を見た。



最近、ちゃんと顔が見れるのは寝顔ばっかり。



その事実に少し自分で苦笑して。

ほぼ無意識に、カカシはへと手を伸ばした。



あとわずかで触れそうになった、その時。



「ん・・・。」


とっさに引っ込めることも出来なくて、カカシの手は宙にしばし浮いたままとなっていた。




「・・・カカシ、さん?」



瞼を気だるげにほんの少し持ち上げて、己の瞳にカカシの姿をとらえた。

やっぱり、と自分の予感が当たった事が嬉しかったのか、
オレが帰ってきたことが嬉しかったのかは定かではないが

は微笑んで「おかえりなさい、カカシさん。」と言った。



後者・・・だったらいいと思う。



気配は完全に消していた。

オレは上忍でこの子はチャクラもない一般人。


存在に気づかれた事に、半分は驚き半分は納得してそれでもカカシは胸がいっぱいになった。

だからなーんで、ってば。



返事がないことを不思議に思ったのか、は身体を起こそうとした。

「あー寝てて?」

カカシは言葉でをいさめた。


「ただーいま。調子はどう?」

「まだ少し熱が、・・・・カカシさん。」


「ん?」


宙に浮いたままになっていた腕にの視線が向かったのに気づき、カカシは隠すようにその腕で頭をかいた。


「あー、大したことないから。ダイジョーブ。それよりはでしょ?」

納得がいってなさそうな表情だったが、カカシは無理矢理話をもとにもどした。

「まだちょっと、・・・ダルいです。」

夜目にもわかる程にの頬は熱で赤く染まり、朝よりも苦しそうだった。
熱をはかるために、カカシはそっとかかる髪をどかしながらの額に手をのせる。


「んーまだ熱があるね。」

確認のためにのせた手のひらには、いつの間にかの手が重なっていた。



「・・・?」

はおもむろにカカシの手をつかみ、頬へと移動させた。
自分の手のひらにが頬擦りしている状態にカカシは内心ギョッとしながらも、冷静を装ってさせたいままにしていた。


「カカシさんの、手。」

「んー?」


「・・・冷たい。」


「きもちいーの?」


返事の代わりにはこくん、と小さく頷いた。

なんとなく甘えられている気がして、くすぐったいような嬉しいような心地がした。



「カカシさん・・・?」


「なーに。」

「眠るまで・・・手、つないでてもいいですか?」

の熱を含んでもはや熱くなり始めたカカシの手を、頬からどけてもまだは離せずにいた。


「いいよ。」


「私が寝るまで、・・・そばに・・・いてくれませんか?」

少し恥ずかしそうに。普段なら絶対に言わないような事でもよほど心細いのだろう、は素直に甘えてくれた。

それが自分でもびっくりするほど嬉しくて。


「ん、ずっとついててあげる。」




眠るまでと言わず、ずっと。



これから先も君の手を握って、

隣にいたらダメかな?



オレはぜひそーしたいんだけど。なーんて言葉は心の中で呟いて。


が握る手と反対の手で、サラサラとの髪をとく。
は、目を閉じながらカカシが頭を撫でる感覚に身をゆだねていた。



スルスルと、
いっては返し。


いってはまた返す。


大きな、でも長くて細い綺麗な指が気持ちいい。

柄にもなく風邪をひいて。
今朝任務に行くカカシさんを、本当は引き止めたかった。


どうしてだろう、寂しくて。


風邪特有の心細さかな、と思ったらなんとなく落ち着いた。



寂しいと思った事なんてさっきまで忘れていたのに、カカシさんの顔を見たら急にまた寂しさが込み上げてきて。
泣いてしまいそうだったなんて、どんだけ弱ってるんだ私は。




なのに、

カカシさんに触れられたら。


それまでの寂しさが嘘みたいに消えて無くなって、心がじんわりとあったまっていく。


カカシさんがそばにいる。それだけで、安心して眠りにつけた。




しばらくして、すやすやと再びの寝息が聞こえてきた。
確かに眠っているのに、握った手はがっちりと掴んだまま離さない。


「そんなに寂しかったの?」

寝ているはずだから、聞こえていないのに。



「ん・・・カカシ、さん。」



・・・・・////


ハァ〜〜〜。


あーもう、寝言でオレの名前呼ぶなんて。


ってば、どんだけオレの心を乱せば気がすむのよ。



「・・・困ったねー。」


オレマジで勘違いしちゃうよ?とか、はオレのことどー思ってんの?とか、

風邪が治ったら是非とも聞いてみたいもんだね。




離れない手に、違う意味で困りながらカカシはそのままそこで一晩をあかした。

翌朝、に何故ここにいるのか。と問われ苦笑いを隠せなかったのは言うまでもない。





オレの気持ちはいつ言えることやら。








ぐはぁ。
11月に入って初の夢更新だなんて!!最近毎日があっという間なんですー・・・。

さーてさて、ついにイルカ先生がさんに告っちゃいましたー(キャvv
なのにカカシ先生のこと考えててスルーなんてやりますねw

カカシ先生もおしいとこまでいったんですけどねー。まだ言わせません!

カカシ先生は、本気で好きになった人に対してはヘタレ希望です。
決めるとこは決めるんだけど、気持ちが溢れすぎて内心必死になってるけど
そういう風に見られたくなくて頑張ってるカカシ先生がいいー。

って高校生じゃねぇんだから・・・(汗

いや、それがいい歳したかっこいいオッサンだからなおいい!!
だって・・・今まで適当に女の子の相手してたのに
いざ本気になってみたらどうしていいかわからずに困ってるカカシ先生って、萌えません?


ワタクシは風邪もひかずに元気でやっております。
ひいたら脳内でカカシ先生に看病してもらおうと思いますw

よーし、ラスト4話です!頑張りますv